効果的なプロンプトパターンとその活用法

プロンプトエンジニアリングにおいて、特定の目的に対して効果的なパターンが確立されています。これらのパターンを理解し適切に活用することで、AIからより質の高い回答を引き出すことができます。ここでは、法務業務でも活用できる主要なプロンプトパターンについて解説します。

プロンプトパターン ロールプロンプト 「あなたは企業法務の専門家です」 「あなたは契約書レビューの エキスパートとして...」 AIに特定の役割を与えて 専門的な視点からの回答を促す ステップバイステップ 「以下の手順で分析してください: 1. 主要条項の特定 2. リスク分析 3. 改善提案」 AIに思考プロセスを 段階的に指示する フォーマット指定 「回答は以下の形式で: - 表形式で各条項のリスク - リスクレベル(高・中・低)」 AIの出力形式を 具体的に指定する Few-shotプロンプト 「例:条項:秘密保持 リスク:情報漏洩 対策:範囲の明確化」 例示を通じてAIに 望ましい回答パターンを示す

プロンプトパターンとは

プロンプトパターンとは、特定の目的や状況に対して効果的であることが確認されている定型的なプロンプト構造のことです。これらのパターンを適切に組み合わせることで、AIからより質の高い、目的に合った回答を引き出すことができます。

1. ロールプロンプト(役割付与)

ロールプロンプトは、AIに特定の役割や専門家としての立場を与えるパターンです。AIに特定の視点や専門知識に基づいた回答を促すことができます。

ロールプロンプトの特徴

  • 専門性の引き出し:AIに特定分野の専門家としての役割を与えることで、その分野に特化した知識や視点を引き出せる
  • 視点の明確化:特定の立場(例:弁護士、依頼者、裁判官など)からの見解を得ることができる
  • 一貫性の向上:AIが一貫した役割を維持することで、回答の一貫性が高まる

ロールプロンプトの例

基本的なプロンプト:
「この契約書の問題点を指摘してください」

ロールプロンプト:
「あなたは20年の経験を持つ企業法務の専門弁護士です。M&A取引に特に精通しており、買収側の立場から以下の株式譲渡契約書を分析し、潜在的なリスクと交渉ポイントを指摘してください」

ロールプロンプトでは、AIに具体的な専門性(企業法務、M&A)と経験レベル(20年)、さらに特定の視点(買収側)を与えることで、より専門的で実践的な分析を引き出しています。

2. ステップバイステップ(段階的指示)

ステップバイステップは、AIに思考プロセスを段階的に指示するパターンです。複雑な問題を分解し、順を追って分析や回答を導き出すよう促します。

ステップバイステップの特徴

  • 思考の整理:複雑な問題を小さなステップに分解することで、より体系的な分析が可能になる
  • 見落としの防止:重要な分析ステップを明示することで、重要な側面の見落としを防ぐ
  • 論理的一貫性:段階的な思考プロセスにより、論理的に一貫した分析が促される
  • 透明性の向上:AIの思考プロセスが可視化され、回答の根拠が明確になる

ステップバイステップの例

基本的なプロンプト:
「この雇用契約書を分析してください」

ステップバイステップ:
「この雇用契約書を以下の手順で分析してください:
1. まず、契約の基本条件(雇用期間、報酬、職務内容)を特定する
2. 次に、競業避止義務や秘密保持義務などの制限条項を抽出し、その範囲と期間を評価する
3. 続いて、解雇条件と手続きを分析し、労働法との整合性を確認する
4. 最後に、従業員にとって特に注意すべき条項とその理由を3つ挙げる」

ステップバイステップのプロンプトでは、分析プロセスを明確な段階に分け、各段階で何を行うべきかを具体的に指示しています。これにより、体系的で包括的な分析が可能になります。

3. フォーマット指定(出力形式の明示)

フォーマット指定は、AIの回答の構造や形式を具体的に指定するパターンです。情報を整理し、使いやすい形で提示するよう促します。

フォーマット指定の特徴

  • 情報の構造化:情報を特定の形式(表、箇条書き、セクションなど)で整理することで可読性が向上する
  • 重要情報の強調:特定の情報(リスク評価、推奨事項など)を目立たせることができる
  • 一貫性の確保:複数の項目や事例を同じ形式で比較できるようになる
  • 後処理の容易さ:特定の形式で出力されたデータは、後で加工や分析がしやすい

フォーマット指定の例

基本的なプロンプト:
「この契約書の主要条項とリスクを説明してください」

フォーマット指定:
「この契約書の主要条項とリスクを以下の形式で分析してください:

```
## 条項名
**条項概要**: [50字以内で簡潔に]
**リスク評価**: [高/中/低]
**潜在的問題**: [箇条書きで3点まで]
**改善提案**: [100字以内]
```

特に重要な条項を5つ選び、上記の形式で分析してください。最後に、全体的な契約リスク評価(A〜Eの5段階)と、その理由を100字以内で追加してください。」

フォーマット指定のプロンプトでは、回答の構造を明確に定義し、各セクションに含めるべき情報とその制約(文字数制限など)を具体的に指示しています。これにより、整理された、一貫性のある分析結果を得ることができます。

4. Few-shotプロンプト(例示学習)

Few-shotプロンプトは、AIに望ましい回答の例を示すことで、同様のパターンでの回答を促すパターンです。具体例を通じて、AIに期待する出力の形式や内容を理解させます。

Few-shotプロンプトの特徴

  • 具体例による学習:抽象的な指示よりも、具体例を通じた方が意図が伝わりやすい
  • パターン認識の促進:AIは例示されたパターンを認識し、同様の形式で回答を生成できる
  • 複雑なタスクの説明:言葉で説明するのが難しい複雑なタスクや形式も、例を示すことで伝えられる
  • 品質の向上:高品質な例を示すことで、同様の品質の回答を引き出せる可能性が高まる

Few-shotプロンプトの例

基本的なプロンプト:
「各条項のリスク分析をしてください」

Few-shotプロンプト:
「以下の契約条項について、下記の例のようにリスク分析を行ってください:

例:
条項:第10条(秘密保持義務)
内容:「甲は、本契約に関連して知り得た乙の一切の情報を、契約終了後も永続的に第三者に開示してはならない」
リスク:範囲が広すぎる秘密保持義務
問題点:(1)「一切の情報」という表現が広すぎる、(2)「永続的」という期間制限がない、(3)正当な開示事由の例外規定がない
リスクレベル:高
対応策:(1)秘密情報の定義を明確化する、(2)合理的な期間制限を設ける(例:5年間)、(3)法令に基づく開示等の例外規定を追加する

以下の条項について、上記と同様の形式で分析してください:
第15条(損害賠償)「甲は、本契約に関連して乙に損害を与えた場合、一切の損害を賠償する責任を負う」
第18条(管轄裁判所)「本契約に関する紛争は、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする」」

Few-shotプロンプトでは、AIに具体的な分析例を示すことで、期待する回答の形式、詳細さのレベル、分析の視点などを明確に伝えています。これにより、AIは例に倣った一貫性のある分析を行うことができます。

プロンプトパターンの組み合わせと応用

実際の使用では、これらのパターンを組み合わせることで、より効果的なプロンプトを作成できます。以下は、複数のパターンを組み合わせた例です:

複合パターンの例

「あなたは国際取引法に精通した企業法務弁護士です(ロールプロンプト)。添付の英文販売代理店契約書を分析し、日本企業(売主側)の立場から以下の手順で評価してください:
1. 主要条項の特定と概要説明
2. 各条項のリスク分析
3. 交渉における優先事項の提案
ステップバイステップ

分析結果は以下の形式で提示してください:
```
## 条項名
**概要**: [条項の要点]
**リスク**: [高/中/低] - [リスクの説明]
**対応策**: [具体的な修正提案]
```
フォーマット指定

例えば:
```
## 第8条(準拠法)
**概要**: 英国法を準拠法とする
**リスク**: 高 - 日本企業にとって不慣れな法体系でのリスク
**対応策**: 日本法への変更を提案、または国際物品売買契約に関する国際連合条約(CISG)の適用を検討
```
Few-shotプロンプト)」

法務業務におけるプロンプトパターンの活用

法務業務では、以下のような場面で各プロンプトパターンが特に有効です:

  • ロールプロンプト:特定の法域や専門分野(知財、労働法、国際取引など)の専門的見解が必要な場合
  • ステップバイステップ:契約書レビュー、法的リスク分析、コンプライアンス評価など、体系的な分析が必要な場合
  • フォーマット指定:複数の契約書や法的文書の比較分析、リスク評価レポートの作成、法的意見書の作成など
  • Few-shotプロンプト:特定の法的文書(契約書条項、法的通知、訴状など)の作成や分析を行う場合

これらのパターンを適切に組み合わせることで、法務業務における様々な課題に対応した効果的なプロンプトを作成することができます。

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